昨年、2種目(100m・200m)ともに自らの日本記録に迫った福島千里の、オリンピックシーズンが開幕した。
2008年に女子短距離で56年ぶりの五輪出場を果たした彼女は、別人レベルの進化を遂げて3度めの舞台を見据えている。
──いよいよオリンピックシーズンの開幕ですね。現在のコンディションは?
まずまずです。ロンドン(オリンピック、2012年)が終わった瞬間は「リオに向けてどうしたらいいか分からない」と思ったのですが、この4年間、1日1日しっかりと練習ができて、ここまで順調にきたと思っています。
──100m、200mともすでに参加標準記録を突破していますね。
200mは去年の5月に、100mも北京の世界選手権でクリアすることができました。ロンドンのときは春先に全然タイムが出なかったのですが、今回は、夏に向けて今より高いレベルでしっかり走れるように準備をしていきたいと思っています。
──昨年の100m11秒23は日本記録に迫る自己2番目、200mの23秒11も自己3番めの好記録です。力強さが加わった走りが印象的でした。
北京(オリンピック、2008年)のときの写真を見ると、きゃしゃな感じで、全然違うんです。今はかなり筋肉がついたと感じています。
──何か取り入れたのですか。
北京オリンピックの後にザバスの方からの栄養サポートを受けるようになって、トレーニングに見合った食事を心がけるようになりました。付けたいところに筋肉が付くようになったし、思い通りにカラダをコントロールできるようになったと感じます。
──どんなアドバイスを受けたのですか。
「栄養フルコース型」の食事を摂ることです。フルコース型と言っても、基本的なことで、1回の食事で主食、おかず、野菜、果物、乳製品の5つがそろっている食事です。たんぱく質を十分に摂るために、おかずは2種類作っています。たんぱく質を多めに摂ることと効率良く摂ることを意識しているので、食事以外では、練習後に1回、プロテインを飲んでいます。
──1年ごとの記録を見てみると、2007年から2008年の間でタイムが大幅に飛躍していまね。
サポートを受けるようになったのは2008年のシーズンが終わってからですが、それから、パフォーマンスが安定してきたと感じています。
──なぜ、安定したと思いますか。
食事を見直してからケガをしにくくなり、練習量もたくさんこなせるようになったからだと思います。ダメだった私が言うのも何なんですけど(笑)、やっぱり健康じゃないと競技はできませんし、食べることは基本だと思います。練習は1部練、2部練しかできませんが、食事は1日に3回あります。ケガをしても食事を休むことはないので、しっかり続けることで早く治すことができます。今はトレーニング後にしっかり食べないと『もったいないな』と感じるようになりました。
──毎日の食事は自炊ですか?
3食とも作っています。外食は、チームの仲間とたまに行くくらいです。食事を作ること自体は苦になりません。自分の目標を達成するために必要なことで、練習と一緒です。
北京オリンピックの後に食事調査をしていただいたのですが、結果を見て、ガッカリしちゃいました(笑)。全然足りていないことが一目瞭然で…。最初は、アスリートに必要な食事として指導された“量”に、まず、びっくりしてしまいました。
──その量をどうやって食べられるようになったのですか。
お腹いっぱいになっても、自分のためだと思って少し無理をしても必要な量を食べるようにしました。練習と一緒!という感覚です。続けていくうちに、それが普通になっていきました。感覚としては、以前の1.5倍くらいは食べられるようになりましたね。今は、1日に3000キロカロリーくらいの食事を摂っています。
──2010年に樹立した日本記録を更新していないことから低迷と言われることがありましたが、タイムを見ると、高いレベルを維持していますね。
低迷と言われるのは、正直キツかったです。ただ、その当時も頑張ってはいたのですが、そのくらいのタイムしか出ないレベルの頑張りだったということも、私自身は分かっていました。
栄養士の方にはコンディションを確認してもらったり、それに合わせた食事やサプリメントの摂り方を相談したりしているのですが、それだけではなくて、栄養とは全く関係がない他愛のないことも相談したりしています。そういう部分でもサポートしてもらっていると感じます。
──では、今シーズンの抱負と読者へのメッセージをお願いします。
まず、日本選手権でしっかりと決め切ること。そして、オリンピックで納得いく結果を残せたらいいなと、思っています。応援、よろしくお願いします。
文/直江光信 インタビュー撮影/高塩 隆
ふくしま・ちさと◎165cm・50kg、1988年6月27日・北海道生まれ。 2015年の日本選手権では、5年連続100m・200mの2冠を獲得。同年は5月に200mで23秒11、6月のアジア選手権100mで金メダル。7月に100m11秒25と4年ぶりに11秒2台を記録すると、4度目の出場となった世界選手権の予選を11秒23で突破。自身の日本記録に0.02秒と迫るセカンドベストをマークした。08年には、日本人選手で56年ぶりの女子100m五輪出場。09年世界選手権では、世界大会で日本人選手77年ぶりの1次予選突破を果たした。10年に100m11秒21、200m22秒89の日本記録を樹立。アジア大会100m、200mで金メダル。
頂 ITADAKI;第1回 畑瀬聡 / 第2回 福島千里(1) / 第3回 福島千里(2) / 第4回 駒澤大学(1) / 第5回 駒澤大学(2) / 第6回 駒澤大学(3) / 第7回 駒澤大学(4) / 第8回 大迫傑