大学長距離選手たちにとって、2016年度の締めくくりとなる日本学生ハーフマラソンが3月5日、東京・立川市で行われた。ユニバーシアード(8月、台北)の代表選考会を兼ねたこの大会で、駒澤大学は2選手が日本代表の内定を獲得。新シーズンに向けて弾みをつけた。
今回は、彼らの「食」に着目し、“頂”を狙う長距離強豪校の日常をリポートする。
駒澤大学陸上競技部の選手たちは、全員が寮で生活をしている。日々の食卓を預かるのは、大八木弘明監督夫人の京子さん。平日は午後3時ごろに寮に行き、夕食の準備を始めるという。選手たちが練習を終えて寮に帰ってくるのは6時半ごろ。ほぼ毎日40人前の食事を作り、炊くお米の量は25合ほどだという。
選手の食事風景やメニューは、Instagram (@komadays)を通じて発信されており、その内容は非常に興味深い。掲載されたさまざまな写真からは、大学陸上界屈指の強豪校の選手たちの貴重なオフショットだけでなく、長距離選手たちのカラダを支える日々の食事の実例を知ることができるのだ。
京子さんが寮の食事を作るようになったのは、20年ほど前から。献立を作る際の参考にする意味もあって、以前から記録として写真を撮りためてきたという。掲載された写真を見てまず感じるのは、品数と彩りの豊富さとバランスの良さだ。
駒澤大学では月曜日から金曜日までの朝食と夕食は寮で提供されており、昼食と週末の食事は選手が各自で摂っている。そのため寮食では、各自で食べる際には摂りにくいもの、例えば色の濃い野菜などが積極的に提供されている。サラダには疲労回復やカゼの予防・ケガ対策になるビタミンCが豊富なトマトやブロッコリー、パプリカなどが彩りよく盛り付けられ、主菜の付け合わせや副菜の和え物、お浸し、汁物の具などにも、ふんだんに野菜が登場する。
他にもすき焼きにうどんが入っていたり、汁物にそうめんが入っていたり、長距離選手が必要とするエネルギー源の炭水化物(糖質)を、食べやすい形でしっかり摂れるような工夫もされている。
また、長距離選手にとって悩みのタネである貧血対策については、レバーや赤身の牛肉、ほうれん草など、鉄分を多く含む食材を使ったメニューを、調理法を変えながら数多く提供している。一方で、カロリー制限のために揚げ物を禁止するといったことはしていない。ごはんをよそうのも、選手各自に任せられている。
制限が多いと食べること自体の楽しみが減ってしまうからだ。その中で各自ウェイトコントロールを行う力も身につけていく。駒澤大学の食事は、選手たちが摂りにくいものをフォローすることに重点を置き、窮屈さを感じさせずに、自然と栄養のバランスが整うメニューになっているのだ。
献立は、ある程度先まで立てているそうだが、OBや保護者から野菜などが差し入れられることが多いため、臨機応変にメニューを変えているという。内容を決める際、バランス以外に意識しているのは、練習の内容に合わせて食事のメニューも変えること。負荷の軽い練習の日は揚げ物を出したりするが、負荷の高い練習になると内臓も疲れるため、食べやすく消化のいい煮物、また鶏の胸肉を入れるなど、たんぱく質を強化したメニューを意識しているという。
ちなみに一番人気はカレーで、この時ばかりは監督から食べ過ぎ注意の声がかかるほどだとか。内容は基本的に家庭で作るカレーと同じだが、野菜を多く入れた“具だくさん”がポイントだ。
現在、陸上長距離に取り組んでいる選手やその保護者の中には、日々の食事をどう摂るべきか頭を痛めている方も少なくないだろう。
「高校時代に走る種目は長くても10000m、箱根はその倍の距離。大学では日々、倍以上の練習が求められるわけで、高校時代にしっかり食べているか、タフなカラダを持っているか、その土台で特に1年生は差が出てくる」と大八木監督は言う。
その点で、駒澤大学の食事から参考にできることは多いはずだ。実際にInstagram (@komadays)を見てみると、高い競技力は、毎日の食事によって支えられていることがよく分かる。
それは、レストランで出されるような特別なメニューではなく、家庭料理を少し工夫した、愛情料理なのだ。
日本学生ハーフマラソン選手権での力走(工藤有生:ナンバー12、片西景:同39、下史典:同28) 撮影/桜井ひとし
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