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ランキング
写真は女子やり投の上位選手。左から斎藤真理菜(国士大4年)、北口榛花(日大2年)、山下実花子(九州共立大2年)

 陸上競技は、記録の優劣で順位が決まる。だが、記録にだけ注目していると、魅力ある選手たちを見逃してしまう。ここでは、そんな選手たちに注目した3つのストーリーを紹介!(文/寺田辰朗:陸上競技ライター)

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No.1  男女100m
北信越勢が輝き放つ

 桐生祥秀(東洋大4年)の日本人初の9秒台(9秒98・+1.8)、中村水月(大阪成蹊大4年)の初優勝(11秒56・+2.3)と、インパクトの強い走りに沸いた男女100m。高校のトップ選手たちの多くが大都市の大学を選ぶなか、男女それぞれの決勝レースに、北信越地区の選手が登場した。

女子100m
前山美優(新潟医療福祉大4年)

 女子の前山美優(新潟医療福祉大4年)は「悔しい2位です。今回は4年間の集大成。最後のインカレで一番高いところに上がりたかった」と、さわやかな表情にも悔しさをにじませた。

 昨年の前山は日本インカレで3位、今年6月の学生個人選手権は優勝している。北信越地区でも全国で戦えることを、身をもって証明していたが、好調の中村の前に敗れた。

「昨年はイケイケで、行けるところまで走りました。今年は守りに入ったわけではありませんが、負けたくない気持ちが強く、たまに力みが出ていた。難しさも感じています」

 この日の走りが力んでいたのかどうかは、軽々しく断じることはできない。
「終盤で力みがあった、と指摘する人もいますし、思い切り走れた感触もありますし」
 確かなのは、高校時代に個人では全国大会の決勝に進めなかった選手が、北信越地区でこのレベルにまで成長したことだ。

 新潟医療福祉大には8レーンの400mトラックだけでなく、120m5レーンの室内トラックがあり、雪が積もっても走る練習ができる。筋力トレーニングの設備も完備され、練習環境を言い訳にできない。山代幸哉コーチも多角的に前山を支えている。

 ただ、周囲のレベルが関東や関西、東海などと比べて低いのは事実。そこも選手に影響する部分だ。
「新潟で強くなりたいと思って、新潟に残りました。関東のようにレベルの高い選手が集まって高め合っている環境も魅力的ですが、北信越のようなブロックでのんびりと、自分の走りと競技に向き合えば、その環境を生かすことができる。陸上競技は勝負ですけど、自分の走りをしないと勝つことができません。自分の走りに徹することを一番に考えていて、それをしっかりと考えられるのが今の環境です」

 勝つことはできなかったが、自身の4年間の取り組みは間違っていなかった。日本インカレ史上3回目の北信越地区開催となった今大会で、それをしっかりと確認した。

男子100m
西村顕志(富山大4年)

 男子の西村顕志(富山大4年)は10秒51で最下位の8位。前日の予選、準決勝の走りが影を潜め、同じ滋賀県出身の桐生の9秒台を、複雑な気持ちで目の当たりにした。

 西村は中学3年時に10秒97と、ハイレベルの記録を出していた。滋賀県では桐生がナンバーワンの存在だったが、当時の桐生は10秒87がベスト。2人の差は0.10秒だった。
「同じ大会に出て、アップを一緒に行ったこともありました。僕は中学では野球部で、全日中に出ても予選落ち。200mで全日中2位だった桐生君は憧れの存在でした」

 桐生が京都の洛南高に進んだのに対し、西村は地元の進学校を選び、1人で練習を考えて行った。記録を出したいが、なかなか出ない。高校時代のベストは3年時の10秒87で、インターハイは滋賀県大会8位。3年時に10秒01を出した桐生との差は開く一方だった。
 しかしサブ種目として取り組んだ400mで、高校3年時に47秒78の好タイムで走った。国体で準決勝に進出し、富山大に進む道が開けたのだ。

 大学では再び100mに取り組んだ。それは、桐生という目標があったから。陸上競技の論文を読み、「走るってこういうことか」と、自分のやってきたことと理論を照合してトレーニングを行った。

 大学1年時に記録が10秒62へ伸び、2年時は10秒69と伸び悩んだが、3年時に10秒51を出して「身になってきた」と実感できた。そして今年、6月の日本学生個人選手権で6位に入賞し、7月の富山県選手権で10秒32までタイムを縮めた。

「昨年の日本インカレが、100mでは全日中以来の全国大会で、桐生君とも同じスタートラインに立つことができました。でも、今年の学生個人選手権は決勝を走ることができた」
 今大会の予選では追い風4.9mながら10秒20で組1位。準決勝の招集所では、桐生から『余裕やったね』と声をかけられた。

「今年の日本インカレは福井開催なので、富山大の部員が全員で応援に来てくれました。個人選手権の6位より良い順位を取りたかったですけど、順位に関係なく、全国の選手と競っている走りを見せたかった」

 決勝は序盤から明らかに置いて行かれ、“競っている"走りは見せられなかった。縮めるはずだった桐生との差は0秒53。歴史的な走りを目の前で見せつけられた。

「憧れの存在だった桐生君が、巡り巡って、勝ちたい目標になりました。去年は予選だけでしたが、今年は決勝も同じスタートラインに立つことができたんです。卒業後も大学院で競技を続ける予定です。桐生君にはいつか、予選でも何でも、本当に1本でいいので勝ってみたい」

 桐生は日本人初9秒台で、西村は初の決勝進出と最下位。最後の日本インカレは、隣県である滋賀県出身2人にとって、ともに劇的な幕切れとなった。中学時代が第一幕とするなら、高校・大学の7年間は第二幕。第三幕は、どんな筋書きが待っているのだろうか。

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